どんなときでも迎えてくれる、本と料理といい空間。
ー文・写真/馬場健太

「京都のいいお店は、看板にしろ何にしろ”掲げてない”ところが多いですね。手間暇かけて料理をつくっているお店ほど、そのこだわりをあんまり言わない。それが京都です」

これは、ある取材先で教えてもらった「いいお店の共通点」です。
京都のいろんなお店に足を運ぶほど、「なるほど確かに」と思います。そしてそれは、料理だけでなく、空間のつくり、お店の雰囲気そのものにも言えることなのではないか。

〈CAFE KOCSI〉は富小路三条を上がったところの建物の2Fにあるカフェです。烏丸御池駅から徒歩7分ほど。

cafe kocsi 本がたくさん置いてあるのだけど「ブックカフェ」ではなく

cafe kocsi自家製のパンも大人気だけれどパン屋さんでもなく
(※昨年、室町姉小路に姉妹店〈annee〉ができたため、現在〈CAFE KOCSI〉のパンもそちらで焼いているとのこと)

料理はフランスの家庭料理がベースにあるのだけど、店内にフランスっぽさがあるかというとそういうわけでもない。

逆にいうと、上記に挙げたすべてをひとつの空間に同居させたものが〈CAFE KOCSI〉というお店です。いい本とおいしい自家製のパン。フランスの喫茶&家庭料理とお酒と心地よい空間。

お店のなかにはひとりでゆっくりする人もいれば恋人同士で過ごす人、友達どうしでワイワイしている人、コーヒーを飲んでいる人お酒を飲んでいる人、食事をしている人。過ごし方はそれぞれだけど、誰一人として浮いていない。あるべくしてそこにいる感じといいますか。いかような過ごし方も受け止めてくれる店内のつくりになっています。

 

それは席の配置や構成のみならず、店内の空気感もそう。たとえば、純喫茶で仕事のためにパソコンをひらくのはなんだか忍びないけれど、(いわゆるチェーン系の)カフェで本を読むのも味気ない。〈CAFE KOSCI〉だと、そのどちらとも、なんだかしっくりくる。純喫茶とカフェの中間を高めた姿がこのお店、といったところでしょうか。

スタッフの方々。
店長の仁科さん(写真真ん中)にいろいろと、このお店のことを教えていただきました。

もともとオーナーはパン職人。オーバカナルでの修行を経て、〈CAFE KOCSI〉がオープンしたのは15年前のこと。

その後、オーナーがフランスへパン修行に行っている間、奥様が1年間、週末のみブックカフェを開いていたそう。今でも本がたくさん置いてあるのは、そのときの名残なのだそうです。

おもしろそうな本がいっぱいです!ジャンルはさまざまですが、きちんと人のフィルターを通した、統一感があります。尖りすぎず、半歩先を優しく提示してくれるような。

cafe kocsi キッシュ

日替わりのキッシュをいただきました。

そもそも、キッシュってどんなときに食べていいのかわからなくてという、男子高校生的な一生とんかつ食ってろ的な相談をしましたところ、「キッシュは、日本の喫茶店だったらトーストがあるように、フランスのカフェによくある、いわば軽食ですね。それから、どんな具材を入れても合うので、メインの食事としてもおすすめです」とのこと!

cafe kocsi ホットドッグ

とにかく美味しいCAFE KOCSIのホットドッグ。ホワイトソースとチーズを自家製のバケットに入れてまるごと焼き上げたもの。男子必食。

メニューは他にも、リエットやアヒージョ、パテなどお酒に合いそうなもの、クロックムッシュやクスクス、カレー、リゾットなどのお腹が満たされるものに、サラダ、デザート、もうたっくさんの種類のお酒など、メニューはとても豊富です。

パンはお持ち帰りも可能。

タバコの自動販売機がカッコイイ。

カウンターやガラスケースの上などに目を凝らすと、日本各地のお土産らしきものが置いてあったりするという絶妙な抜け感。小物や内装なども、オーナーの趣味嗜好がこのまま反映されているとのこと。

カフェコチが目指すのは「いつきても、おなじものがおいしく食べられる空間」
空間そのものも、メニューもオープン当初からほとんど変わっていないそうです。社会の動きや流行り廃りもめまぐるしく変化しているこの15年間、
それでも「変わらず」に在ることは、大変なことです。

お店の人柄と、思いやり。
なぜこの場所は、こんなに居心地がいいのだろう。
それは、オーナー夫妻の「他人への思いやり」が空間や、スタッフの方々にも染み渡っているからではないかと思います。

店長の仁科さんは、それまでに勤めた飲食店と比べても「こんなに、お客さんのことを大事にする飲食店を、みたことがなかった」といいます。

本当に細かいことまで、お客さんのことを考えている。他人のことを思いやっている。けっして言うことでもないし、お客さんも気づかないくらいのことだけど、徹底して考えている。そんな思いやりに惹かれてやってくるお客さんは、みんないい人ばかり。そのお客さんが、いい空気をつくりだすという好循環。

「だから、なんか、そういうところに惹かれてるんですかね。このお店の、人柄というか。」

ひとりのとき、ふたりのとき、みんなでいるとき。
本を読みたい、パンを食べたい、いやむしろけっこうお腹空いてきた。お酒も飲みたいね今日はね、なんていうとき。

住所:京都市中京区冨小路通三条上ル福長町123 黄瀬ビル2F(地図)