錦市場



錦市場で出会う京の正月料理

―文:長友麻希子、写真:本間腕

 

新年は、日本人にとって一年をめぐる最大の節目です。その節目に食べる料理というのが本来の「おせち」料理です。重箱に詰まった料理が「おせち」というわけではないのです。

正月料理というと豪華な印象がありますが、京都のお正月の基本は白みそのお雑煮です。三種祝い肴と呼ばれる、子孫繁栄の数の子、たたきごぼう、ごまめ。そして黒豆。棒鱈と小芋の炊き合わせも正月によく作られる料理です。

今回は、京の台所といわれる錦市場をふらりと散策しながら、正月料理の世界にふれてみましょう。

 

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(岡タカシ)

錦市場は 400年以上続く京都で最も古い市場です。京の台所といわれ、年の瀬が近づくと、京都の人々は「おせち」の食材を求めて錦市場へ食材を買いに行きます。ここならほとんどの材料が手に入るからです。京都の人は、親しみを込めて「錦」と呼んでいます。

この錦市場は、アート界で大人気の江戸時代の画家・伊藤若冲生誕の地としても知られています。最近は、若冲にちなんだイベントがたくさん行われています。

市場の全長は390メートル。現在は126店舗が営業していて、東の端は寺町通り、西の端は高倉通りに面しています。今回は、高倉通り側から入ってみましょう。

 

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まずは、京野菜を扱う店として有名な「かね松老舗」さんへ。明治時代から続く老舗です。さっそく中に入ってみましょう。

まずはたたきゴボウの材料になる、堀川ごぼうから。実際に見ると、びっくりするような大きさです。しかも形もスゴイ! なぜ、こんな形でこんな大きさなのかと不思議に思いますが、これこそが京野菜らしい特徴を表しています。

堀川ごぼうの歴史は古く、秀吉の遺構・聚楽第の堀の跡から偶然発見されたという伝説があり、栽培も400年以上続いているといわれます。しかし、そもそも堀川ごぼうという特別な品種があるわけではありません。特殊な越年栽培によって堀川ごぼうとして大きく太く育てていくわけです。京野菜に見られるユニークなかたちは、こういった栽培法の工夫によるところが大きいのです。

堀川ごぼうは先端の根に近い部分を「たたきごぼう」、また太い部分は中心が空洞なので、そこに鳥や鴨などのひき肉などを詰める「射込み」という料理にして食べます。最近は、年末から新春にかけてわずかに出回ります。

 

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真っ赤な人参「金時にんじん」も正月料理に欠かせません。西洋人参とは異なる色と濃い味が特徴です。めでたい時に炊いて食べる「えびいも」も正月の食材です。

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次にやってきたのは、お惣菜を扱う「錦 平野」さん。棒鱈(ぼうだら)を使った料理をさがしてみましょう。京野菜のえびいもと炊き合わせるのが京都では定番です。北海道産の棒鱈は調理するのに手間がかかりますが、かつて生魚が手に入りにくかった京都では大切な海の恵みでした。正月や婚礼といったハレの日にだけ使われた食材です。

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(岡タカシ)

「まめまめしく働くように」という語呂合わせもあり、正月料理に欠かせない黒豆。京都では、ひときわ粒が大きくて見た目も立派な丹波産が好まれます。とても高級ですが、お正月前に収穫されたばかりの黒豆はふっくらと美しく炊き上がり、おいしさも格別です。

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錦市場のちょうど真ん中あたりに、京都らしい川魚専門店の山元馬場商店さんがあります。店頭に並ぶ昆布締め、もろこの佃煮など、お重に入れたくなるような食べ物が並びます。川魚のお店ですが、ジビエの鴨も扱います。新鮮な鴨は予約で売り切れてしまうそうです。

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最後にやってきたのは、「錦 餅つき屋」さん。ここで、京都のお正月を象徴する白みそのお雑煮を食べてみましょう。京都では丸餅を焼かずに入れるのが一般的です。

白みそのお雑煮は、お餅に頭芋(里芋の親芋の部分)のみを入れるシンプルなスタイルを好む家庭や、さらに金時人参や大根の輪切りを入れる家庭があります。京都独特の米麹たっぷりの甘い白みその風味を楽しむのが、京都らしいお雑煮の在り方です。

 

和食はいまやユネスコの無形文化遺産。豪華で繊細な京料理のみならず、日本古来の伝統的な食文化が評価されてのことでした。そんな伝統料理の代表がこういった正月料理です。 

錦市場商店街〉(地図

★長友麻希子さんによるTRAVEL IDEA「京の冬の食を旅する」はこれで終了です。他のTRAVEL IDEAもぜひご覧ください。

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