方広寺と大仏餅

幻の京都大仏を今に伝える門前名物

―文:さかもとみえ、写真:本間腕

 

京都に大仏?と、驚く人もいるのではないでしょうか。かつて、方広寺には、豊臣秀吉が両親の菩提を弔うために建立された高さ約19メートルにも及ぶ大仏がありました。奈良の大仏よりも一回り大きかったそうで、京都のランドマークだったようです。また方広寺は大仏の大きさもさることながら、敷地は、今の三十三間堂や智積院、京都国立博物館を含むほど広大だったといいます。大仏は創建以来約400年、地震や火災により幾度となく再建されたようですが、昭和48年の火災以来、幻の京都大仏となってしまいました。

現在、方広寺には、慶長19年(1614)に完成した約4メートルの梵鐘のみが残り、「国家安康」「君臣豊楽」と白枠で囲まれた銘が徳川家康の逆鱗に触れ、豊臣家が滅亡したといわれるエピソードは有名です。

また現在の方広寺に隣接する豊臣秀吉を祀る豊国神社の石垣は、かつて方広寺の石垣でした。その石の大きさに秀吉の権力がうかがえます。

 

豊国神社は天下統一した秀吉にあやかって、出世・開運のご利益で有名な神社で、宝物館には豊臣家の遺品が展示されています。写真は、宝物館より「獏御枕」。獏は夢を食べる動物といわれ、秀吉が安眠を得るために枕として使っていたと伝わります。秀吉のトレードマーク、千成瓢箪の絵馬が唐門付近に掛けられています。

 

さて、京都が観光都市として栄えたのは、庶民の暮らしが安定し、華やかな文化が花開いた江戸時代のことでした。物見遊山の人々で京都は大変な賑わいをみせ、各名所の門前には名物が売られるようになりました。なかでも、「洛東名物大仏餅」という暖簾がかけられた方広寺大仏の門前名物「大仏餅」は、江戸時代のガイドブック『都名所図会』にも見開き1ページ、大きな挿絵とともに取り上げられるなど、全国にその名を轟かせた大人気の京名物だったようです。そこに描かれた大仏餅を食べる旅人の嬉しそうな表情がそのことを物語っています。しかし、大仏建立時からずっと大仏餅を販売していた店は、戦後廃業してしまいます。

「ご近所で同業者だったことから、祖父が大仏餅を引き継ぐ形で復活させました」と、木ノ下稔さん。大仏餅の危機を救ったのが、同じく方広寺門前の甘春堂でした。

「杵と石臼で餅を搗き、当時の製法のままにこだわっています。素手で餅の加減をみながら杵と石臼で職人が丁寧に搗くからこそ口当たりが滑らかな餅に仕上がるんです」

甘春堂は、慶応元年(1865)から続く老舗の和菓子屋。現在は販売のほか、茶房や観光客向けの和菓子作り体験もできます。

蒸したて熱々のもち米をすぐさま石臼へ。しゃもじでほぐしていると、石臼が粗熱をとってくれます。

何度も水を加えながら、餅を搗きはじめます。ここでもまだまだ、餅は熱々。真っ赤な手で何度も餅を引き延ばしながらスピード全開。「熱いうちに餅は搗かないとおいしくなりません。季節によって水加減や搗く時間が変わってくるので、熟練の技と経験が必要ですね」。さらに、やわらかな食感にするために砂糖を数回に分けて入れて搗きます。最後に艶を出すために、しっかりと水分をとばすことが重要とか。

丁寧に餅に餡子を包みながら話してくれる木ノ下さん。「家族で店をやっているので、忙しい時は中学生くらいから箱折の手伝いをしていました。本格的に和菓子を習うようになったのは高校生の時かな。昔は、まったく店を継ぐことなんて考えてなかったけど・・・。和菓子屋に生まれてしまったので、それは“宿命”というしかないですね」

仕上げに「一文字」という、どら焼きを焼く鉄板で片面だけ餅を焼き、ふっくら香ばしく。餅を焼くのは、何度も火災で焼けた大仏さんの童歌に由来しているそう。その後、「京大佛」という焼き印を一つひとつ押したら、出来上がりです。

「ご贔屓さんから観光客まで、お客さんの期待に応えられる和菓子屋になりたいですね」と、目標を爽やかに語ってくれました。木ノ下家に伝わる商道を小さいころから学んできたことや、修行の中で培った職人としての確かな技術や心構え、後継者としてのモチベーションが大仏餅のおいしさに直結するんだと感じました。

大仏餅は1個120円、5個入り600円(税込648円)。『都名所図会』のパッケージ。

豊国神社と方広寺の目と鼻の先に位置するのが、東店。本店は、鴨川のすぐ近くにあります。

 

甘春堂 東店

住所:京都市東山区大和大路通正面下ル茶屋町511-1

TEL:075-561-1318

時間:9:00~18:00

休業:無休

WEBサイト:http://www.kanshundo.co.jp/

 

方広寺

住所:京都市東山区正面通大和大路東入茶屋町527-2

TEL:075-561-1720

時間、休み、料金:境内自由

 

豊国神社

住所:京都市東山区大和大路通正面茶屋町530

TEL:075-561-3802

時間:9:00~16:30

休み:無休

料金:境内自由(宝物館は300円)

 

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