下鴨神社と鯖寿司

下鴨神社の門前名物は京のハレの日のごちそう

―文:佐々木歩、写真:本間腕

 

平安京が築かれるよりはるか昔、糺の森に創建された古社・下鴨神社。国と京都の守り神として、また皇室の氏神として崇められ、奈良時代にはすでに葵祭が行われていたことが『続日本記』に記されています。『源氏物語』や『枕草子』といった王朝文学などにも登場し、いかに下鴨神社が古くから人々に崇敬されていたかが伺えます。本殿をはじめ国宝揃いのお社に、縁結びの神様を祀る相生社、日本国家にも歌われるさざれ石、境内から糺の森へと流れる奈良の小川など、佇まいやその景色から古(いにしえ)の風情が感じられます。

かつての下鴨神社門前には、参拝客を迎え入れた茶屋が数多くあったといいます。今でも境内の御手洗池が発祥といわれる加茂みたらし茶屋の「みたらし団子」や、境内の一の鳥居前には葵祭の申の日に神様にお供えされたという「申餅」が味わえる休憩処さるやがあり、門前名物としてたいへん人気を呼んでいます。

そして、この下鴨神社近辺に福井〜京都間を繋ぐ鯖街道の終着点があり、そこで作られる「鯖寿司」も、門前名物のひとつに数えられています。

冷蔵技術がなかった昔、海から遠く離れた土地へ魚を運ぶ時には、そのままではすぐに傷んでしまうため、魚を塩漬けにして運んでいました。三方を山に囲まれ、山や野の幸、あるいは桂川や琵琶湖などの川魚が料理の主流だった京都では、若狭の小浜(福井県)から若狭街道を通って「一汐(ひとしお)」した海の幸が運ばれました。特に江戸時代に入るとその運搬は活発になり、特に傷みやすい鯖は塩漬けにし、2〜3日かけて運ばれると、京に着く頃にはちょうど良いあんばいになっていたといい、いつしかこの道は「鯖街道」と呼ばれるようになりました。 

鯖街道の終着点、出町柳の橋のたもとには石碑が立っています。若狭から京まではおよそ18里、約72kmの道のりを経て、ここに辿り着いたのでしょう。鯖街道の途中、朽木という地域を通りますが、ここの花折峠に工房を構える鯖寿司の老舗・花折は、下鴨神社近くに本店があり、京の人々が季節の折々に買い求めています。

「もともとは仕出しの店でしたが、先々代の社長の時に鯖寿司の専門店になりました」と統括料理長の筒前(どうまえ)輝明さん。以来、京の人々にとって欠かせない1軒として知られます。「鯖寿司は、5月の葵祭や7月の祇園祭といった大事な祭の日のほか、お祝い事の時にも食べる『ハレの日』の品です。昔は各家庭でも作られていたようですが、今ではうちなどのような店に買いに来られるところがほとんどでしょうね」。

鯖寿司の素材は、花折ならではの吟味されたものばかり。

「米は近江米日本晴とコシヒカリのブレンドで、朽木の農家に専用に作ってもらっています。硬めに炊き上げる方法も、季節や新米などによって変わるため、一筋縄ではいきません。酢は小浜のとば屋という300年も続いているというお酢屋さんから仕入れています。鯖の上に乗せる薄い透明の昆布は白板昆布。おぼろ昆布を削った最後に残った部分で、酢に漬けると透明になります。これをのせることで鯖が乾かず、味がよく染みこむのです」

そして重要な鯖は、現在では福井をはじめ近海の鯖を使用。内蔵を取り出し粗塩をした塩鯖を、三枚に下ろして中骨を抜き、その日に使う分だけ毎朝2時間ほど酢に漬け込んで使います。皮を剥がし、あらかじめ型をとっておいた酢飯にのせ、白板昆布をのせ、型に入れて手で押さえて形を整えると完成。この手押しの加減もなかなか難しく、押し込みすぎても弱すぎてもダメ。

こうしてできあがった鯖寿司、食べてみるとさっぱりとしたすし飯の加減と鯖の塩加減が絶妙に絡み合います。歯ごたえのある鯖のプリプリとした食感も御馳走感を引き立てます。

「できたてより、1日経った方がおいしく味わえます。ご飯と鯖が馴染んでちょうど良い具合になるんです。常連さんたちは、食べる前の日に買いに来られますね」

涼しいところに置いておけば、3日間ほど大丈夫。つい冷蔵庫に入れがちですが、そうするとすし飯が固くなってしまっておいしくなくなってしまうそうです。

 

昔からの味、そして作り方を忠実に守り、伝えている花折。特別な日に、この鯖寿司を味わっていただきたいです。

 

下鴨神社

住所:京都市左京区下鴨泉川町59

TEL:075-781-0010

開門時間:6:00~18:00(冬季は6:30~17:00、御手洗祭の期間はWEB参照)

定休日:なし

WEBサイト:http://www.shimogamo-jinja.or.jp/

 

鯖街道 花折 下鴨店

住所:京都市左京区下鴨宮崎町121

TEL:075-712-5245

営業時間:9:00〜18:00

定休日:不定休、1月1日

WEBサイト:http://www.hanaore.co.jp/

 

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