平成知新館

完璧な静けさと共にかすかな水のさざめきを感じ、心洗われる場所

―文:木村桂子、写真:岡タカシ

明治30年に開館した京都国立博物館。重要文化財である明治古都館の堂々たる佇まいを引き立てるように、平成知新館は2014年9月にオープンしました。設計は、ニューヨーク近代美術館新館や、東京国立博物館法隆寺宝物館などを手掛けた、世界的な建築家・谷口吉生氏。1998年にプロジェクトが立ち上がってから、16年の時を経て完成した平成知新館は、完璧に調和の取れた静観な佇まいで私たちを迎え入れてくれます。

「谷口先生が平成知新館を設計するにあたって重視されたのは、3つ。建物の“プロポーション”と“素材”、それに“自然光”です」と教えてくださったのは、京都国立博物館で環境整備を担当される、一級建築士の北條敦子さん。直線を多用するモダニズム建築の目指すところは、究極のシンプル。余計なものが一切ない、なんとも静かで調和の取れたデザインの中にあって、壁や床など一つひとつにこだわった素材、そして光の効果と、その光を引き立てる水の存在感には圧倒されます。

今でこそ平成知新館には水ありき、だと思えますが、じつは当初、水はちょっと…との議論もあったのだそうです。「博物館とは、元来作品を劣化させる要素である“水”というものを、嫌うんですね。たとえ構造上中に入ってこないとわかっていても、二の足を踏むところがあったようです」。けれども、谷口氏の強い思いと水が持つ意味合いを熟考した結果、現在の形に落ち着いたのだとか。

水の持つ意味、それは“究極の水平”だということ。「水面は波うたない限り常に水平で、完全な直線。そんな水面がうつろいだときに反射する、色とりどりの光も美しいです」。水面におけるこの2つの表情を見せるべく、水に設えた小さな噴水は、静かさと躍動感のある動きを交互に繰り返します。

さらに水が平成知新館の結界となり、通ることで新鮮な気持ちになれる、というのも大きなポイント。寺院では参拝する前のお清めとして手水舎を備えていますが、それと同じ役割をしているともいえます。

計算し尽くされたデザインの平成知新館、ロビーに設えられた椅子に座って東山の方を見ると、水のゆらめきの向こうに明治古都館がなんとも美しく見えます。もちろん展示スペースも素晴らしく、大型の超高透過ガラスを採用し、金属部分を最小限にすることで、展示物をより身近に感じられる設計に。寺院の宝物を数多く保管する同博物館ならではの、京都の寺院にちなんだ展示も多く、厳かな気持ちになります。

どこまでも完璧で、寸分の狂いもなく、落ち着いた世界。統一感と、整然さ。パーフェクトな佇まいの中にあって感じる、移ろいゆく景色と水の繊細なさざめき。一度訪れればいつまでも埋没していたい、そう心から思える特別な場所です。

京都国立博物館 平成知新館
住所:京都市東山区茶屋町527
電話:075-525-2473
営業時間:9:30〜16:30
※特別展覧会開催期間中は9:30〜17:30(金曜日のみ 〜19:30)
休館日:毎週月曜日(祝日は開館し、翌火曜日休館)

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