前田珈琲 室町本店

祇園祭にも深く関わる老舗珈琲店で至福の一杯を味わう

―文:林宏樹、写真:津久井珠美

こだわりの自家焙煎コーヒーに加え、手作りのケーキやフードメニューが楽しめる喫茶店として知られる前田珈琲。京都芸術センター(旧明倫小学校)や京都文化博物館など、現在京都市内に7店舗を構えていますが、その本店が祇園祭で橋弁慶山(はしべんけいやま)が建つ、その名も橋弁慶町にあります。

幔幕が掛けられ、ガラス越しにドイツ製の焙煎機が見える本店は、元は呉服屋さんだった建物だとか。いつもお店の前に自転車がたくさん並んでいることからも、地元の方から愛されていることがよくわかります。

もし早朝に、店の前を掃除し水を打っている男性を見かけたら、それが前田珈琲の創業者で現会長の前田隆弘(まえだたかひろ)さんです。イノダコーヒとワールドコーヒーという京都の戦後の喫茶店史を語る上で外せない両店で修行後、大宮高辻で小さな喫茶店を創業。昭和56年(1986)に室町本店を開店されました。

「早く町内に溶け込めるように、祇園祭の手伝いは進んでやりました」と本店を開店した当時のことを振り返る隆弘さん。橋弁慶山は後祭の巡行の先頭を、毎年「くじとらず」で務める格式ある山だけに、ご町内のみなさんも旦那衆自らが汗を流して祭りを支える伝統があるのだとか。一緒に汗を流したことで次第に近隣からも受け入れられ、室町筋がバブル景気で沸いた頃には、毎朝情報交換をする呉服屋の営業マンで、広い本店の席が埋まったといいます。

永年の町内への貢献もあり、現在では橋弁慶町でも欠かせない存在となった隆弘さん。今年も7月24日の山鉾巡行では、息子で現社長の前田剛(まえだつよし)さんと一緒に、裃姿で山に付き添い、祭に参加される様子が見られるはずです。
そういった繋がりもあり、本店内には明治時代に町内で消火用に購入し、近年は蔵で眠っていた手動ポンプの「龍吐水」が展示されているほか、葵祭の様子を円山応挙の下絵を元に描いた橋弁慶山の胴掛けの写真パネルが飾られていたりします。このことからも、前田珈琲がこの町にすっかり溶け込んでいることが窺えます。

取材時の隆弘さんは、45年前から使っているという手回しのサンプルロースターを実演して見せてくださったり、自らコーヒーを淹れてくださったりと、サービス精神満点。「イノダコーヒの先代から「お客さんにおもてなしの心を伝えなあかん」と何度も言われたことは、いまでも胸に刻み、前田珈琲の従業員にもことあるごとに伝えているのだとか。
そのおもてなしの心で、取材で伺った筆者たちも隆弘さんにすっかりもてなされてしまったのですが、読者の方が行かれても、それはきっと感じられるはずです。

〈前田珈琲 室町本店〉
住所: 京都市中京区蛸薬師通烏丸西入ル橋弁慶町236 (地図)
TEL: 075-255-2588
営業時間:7:00〜19:00
定休日:なし
WEBサイト:http://www.maedacoffee.com/

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