童夢

ケーキも音楽もオリジナルにこだわる

ー文:中村慶子、写真:瀧本加奈子

今出川通に面してショーケースを設け、手づくりケーキを対面販売する「童夢」。夕暮れどき、スーツ姿の男性が家族に買って帰るのか、ケーキを5個注文する姿を見て「こういう町のケーキ屋さん少なくなったな」と懐かしさを覚えました。「お母さんが自転車の後部座席にお子さんを座らせたままでも買えるような店にしたくてね」。調理師学校の製菓部で講師としてケーキ作りを教えた後、1980年に25歳で店を開いたオーナーパティシエの本川恵子さんが教えてくれました。開店当時は珍しかったというタルトを中心に、ショートケーキやシュークリームなど約20種を販売。店頭で選んだケーキを店内でイートインできるほか、週替わりのランチもあります。

「タルト・オ・モンブラン」(450円)をいただくと、生地はしっとりサクサク、マロンクリームはコクがあっても甘ったるさやしつこさはない絶妙な味わいです。本格的な味ながら気取り過ぎないケーキだから、長く愛されるのかもしれません。「素材を生かすケーキを追求して、これまで500種以上のオリジナルレシピを考えてきました」。例えば「メイプル イン シュー」(390円)のシュー生地は水の代わりに牛乳、バターも多めに入れるなど、一般には膨らみにくいと思われるレシピ。中にメイプルシロップ入りのプチシューが入ったユニークな人気商品です。「紅茶バレンシア」(400円)はオレンジ味と紅茶味のクリームのハーモニーが新鮮で、一度食べたら癖になるおいしさです。

「自分を表現するのが好きなんでしょうね」。その表現方法はケーキ作りにとどまりません。4歳のときピアノを始めた本川さんは、学生時代にレストランでオリジナル曲をピアノ演奏していた経験の持ち主。洋菓子店のオープン当初は音楽から遠ざかったものの、軌道に乗ってからは作詞作曲を再開して鴨川や認知症の母をテーマに曲を作り、プロの協力を得てCD「空の彼方に」も制作しました。「私が誰とわからぬ母が 幼人形の唇に乳首ふくませ私の名を呼ぶ 愛しい微笑よ…」は母と暮らす中で生まれた「面影」という曲。「介護をして初めて知ったことも多い。年を重ねることで見えてきたものを表現していきたい」と意欲的です。

細長いケーキ店の奥にアップライトのピアノが1台。プロに定期的に依頼して開くミニコンサートで使用するほか、「私も閉店後、消音にしてつま弾いています。仕事中に浮かんだメロディを音にしておくためにね」。洋菓子店を営みながら母を介護し、わずかな時間に作詞作曲に取り組むハードな毎日の本川さん。彼女の活力と独創性の詰まったケーキと音楽は、人を元気にする力を持っていると感じました。


童夢
住所:京都市上京区今出川通寺町東入ル一真町92(地図)
TEL:075-256-3557
営業時間:10:30~22:00
定休日:日曜、月曜

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