船岡温泉

日本が誇る文化財を裸で観賞しよう〈船岡温泉〉 

ー文・写真:牟田悠

立派な石垣、手入れの行き届いた松、威風堂々たる軒唐破風。そして、国の登録有形文化財にも指定されている脱衣所と浴室。

〈船岡温泉〉は、初めて訪れた人なら誰もが驚く豪華絢爛な銭湯です。

1923(大正12)年、料理旅館・船岡楼の付属浴場としてつくられたのが、〈船岡温泉〉のはじまり。

「銭湯なのに温泉?」と不思議に思うかもしれませんが、この名前は2代目ご主人の熱意の賜物です。1932(昭和7)年、「なんとか温泉という名前を得られないか」と考えた2代目が、日本で初めて電気風呂を導入。わざわざ東京まで足を運び、通産省から「特殊風呂船岡温泉」という名前で営業する許可を得ました。

「電気風呂は、二代目が『これはいいもんやから』というてあちこちに広めたんです。良いものは独占せずに、みんなで一緒にやろうという考え方があったみたいですね」。

そうお話してくださったのは、四代目である大野義男さん。今では当たり前のようにあちこちの銭湯で見られる電気風呂ですが、ここから始まったのだと思うと感慨があります。

その後、日本は第二次世界大戦に突入。旅行をする人がいなくなってしまったため、船岡楼は開店休業状態だったそうです。

戦争が終わってまもない1947(昭和22)年に、銭湯として再出発しました。

船岡温泉 外観隣のパン屋さんの外壁に、「特殊舟岡温泉」の名前が残っています。

船岡温泉 大野さん四代目ご主人の大野さん。御歳80を越えてもお肌がつやつやなのは、毎日お湯に浸かっているから?

〈船岡温泉〉のすごさは、外観だけにとどまりません。

まず見てもらいたいのが、脱衣所の欄間。宮内庁御用達の彫刻師の手になるという、繊細な細工が施されています。絵柄は場所によってさまざま。鶴と亀のようにおめでたいものもあれば、上賀茂神社の馬比べ、葵祭、今宮神社の神輿行列と、付近にある神社での祭事を描いたものもあります。

船岡温泉 欄間1上賀茂神社・下鴨神社の葵祭がモチーフの欄間。御所車が特徴です。

最も特徴的なのは、女湯と男湯を仕切る部分に施された彫刻。上海事変をテーマにしており、軍人や大砲、飛行機、艦隊などが彫り込まれていて迫力があります。このような絵柄が刻まれているのは、2代目が上海事変に出兵し、負傷して帰国したからなのだそう。

船岡温泉 欄間2上海事変の英雄である爆弾三勇士

上海事変の欄間からまっすぐ目を上に向けると、そこでは鞍馬天狗が睨みをきかせていました。牛若丸に、よく見るとカラス天狗もいます。

〈船岡温泉〉はちょうど鞍馬山への入口に位置しているため、土地の伝説にちなんでいるとのこと。

船岡温泉 鞍馬天狗 

色とりどりの花を描いた華麗なタイルも見逃せません。地中海のマヨルカ島で生まれたという「マジョリカタイル」です。日本では、船岡楼が開業した大正〜昭和初期にかけて流行しました。

とくに、お風呂場へと続く渡り廊下は左右にびっしりと貼られていて、とっても華やかです。船岡温泉 マジョリカタイル表面は立体的。触ってみると凸凹がよくわかります。

船岡温泉 マジョリカタイル2

はてさて、ようやくお風呂に到着しました。ここまで重厚な歴史に触れてきましたが、浴場はとても明るく近代的。

漢方薬の入ったくすり風呂、あわ風呂、打たせ湯、サウナと、バラエティも豊富です。

船岡温泉 浴場3

立派な露天風呂まであって、思わず歓声を上げてしまいました。ひとつがヒノキ造りで、もうひとつが石造りです(男湯と女湯が日替わり)。以前はお庭があったところに、今のご主人がつくりました。

船岡温泉 浴場2龍や亀、裸婦など、あちこちに石像が立っています。

ちなみに、船岡楼を開業するまで、大野家では代々庭石屋さんを営んでいたそうです。石垣をはじめ、お風呂場でもいたるところに使われている見事な石材は、その当時に採掘されたもの。

「大正から昭和の始まりにかけて不況があったんですが、そのときに庭づくりをするようなところがなくなってしまったんですね。それで、料理旅館を始めたんです。石垣は、昔の記念に並べています。貴船石・鞍馬石といって、今ではもう二度と手に入らない石です」。

船岡温泉 欄干

見どころ満載の〈船岡温泉〉ですが、私個人としては随所に配された石が一番印象的でした。

京都には名建築がたくさんありますが、裸で楽しめるのは〈船岡温泉〉だけ。他では味わえない贅沢を、堪能してみませんか?

徒歩3分の場所に京町屋の直営ゲストハウスもあるので、 旅行の際は要チェックです。

 

〈船岡温泉〉

住所:京都府京都市北区紫野南舟岡町82-1

TEL:075-441-3735

営業時間:15:00~25:00(日曜は8:00~25:00)

WEBサイト:http://funaokaonsen.net/

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