SUZU「清課堂」

経年変化に見る使い手との歴史

文:日沖桜皮、写真:瀧本加奈子

「いぶし銀」という言葉がある。
金に対するある種のテーゼ的な表現であり、銀がくすみを帯びた見た目のことを言うものであるが、地味でも価値や魅力のある物事や人物に対する比喩としても使われる。
西欧の銀食器は、欧米人の好みであろうか、磨きに磨いてピカピカな状態を保って使用することが多い。そんなことから、「いぶし銀」に価値を求める文化は、やはり日本ならではのものであろうと私は思う。

銀の話から入ってしまったが、こちら清課堂は錫製品の作り手である。錫の色は銀色であるが、銀と比べると輝度は低く、まさに「いぶし銀」なのだ。
錫製品の歴史をひも解いてみると、大きく、3種類の器として人々の生活に君臨してきたことがわかる。ひとつは「神器」。神社で使用されるお神酒徳利や塩盛皿などは錫製のものが多く使われてきた。次いで「茶器」。8世紀ごろ、唐より日本に茶が伝わったときの器が錫であったと言われており、茶入、茶筒、茶托などは錫製のものが多かった。そして「食器」である。神器や茶器は、庶民に身近なものではなかったが、江戸時代になり国内で鉱山が見つかり錫がとれるようになると、錫製の食器が瞬く間に流行した。

天保9(1838)年、現在も工房と店舗を構えるこの地で創業した清課堂。現当主・七代目山中源兵衛さんは、錫製品についてこう語る。
「錫はやわらかい金属ですから、使っていくうちに傷もつきますし凹んだりもします。修理はもちろん可能ですが、そうした変化は、使い手に渡ってからの、人とモノの歴史を表すものであると思います。つまり、むしろそういった性質を楽しんでいただきたいのです」

山中さんによれば、錫の経年変化を前提に設計するのだという。10年後、50年後の表面の色合いの変化を予測するといった見た目の部分はもちろんのこと、蓋と本体のはまり具合なども、少々キツめにしておくと徐々にわずかに広がってちょうどよくなるのだ、と。
「使って味が出る」ところが錫の特徴だと思ってはいたが、そこに「人とモノの歴史」を見出すまでの感性は、さすがのひとことだ。

さて、錫をはじめとする金属容器の利点は、「密閉性」である。さまざまな素材の器の中で、「密閉性」に関しては錫の右に出るものはないのである。

経験のある方もおられると思うが、錫製の茶入の蓋を閉める時、蓋を本体に対しまっすぐに乗せると、蓋の重みが中の空気をゆっくりと外に追い出しながら静かに落下して、ストンと蓋が閉まる。時間にしてわずか数秒、見ていて息をのむような瞬間だ。この「空気を外に追い出す」ための数ミクロンのわずかな隙間を作る高い技術が求められるが、なぜ錫はそうした設計が可能なのかといえば、ろくろで削り出せる数少ない金属であるために、完全なる「真円」が可能になるからであるという。

このことにより容器の密閉性が保たれ、湿気が入らず香りも逃げない。そして微生物にさえ、入り込む隙を与えない。「気密性」と「抗菌性」。茶葉をはじめ、食品の保存にこれ以上の環境はない。

山中さんの最近のマイブームをうかがってみた。
「いまはもう日用品ではなくなっているような昔の商品に興味があります」と。
印籠や薬入れなどがその例という。
「形もユニークだし、あけ方なんかも一瞬あれっ?とわからなかったりするところがおもしろいですね。実用性というよりは、見せて楽しむものだったんだと思いますね」

そんな山中さんの感性から、店舗奥のギャラリーでは、金属工芸の作家たちの展示会が頻繁に開催されている。
用と美――。よく言われることであるが、山中さんのお話を聞き、あらためのその意味を痛感した。

〈清課堂〉
住所:京都市中京区寺町通二条下る妙満寺前町462(地図) 電話:075-231-3661 FAX:075-231-6542 営業時間:10:00-18:00 定休日:1月1~3日

 

★この記事は、京都を「A」から「Z」で考えるWEBマガジン『BEACON MAGAZINE VOL.2 ~CRAFTS of KYOTO』に掲載されています。ぜひこちらから他の記事もご覧ください。
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