KAWARA 「浅田製瓦工場」

京瓦の新たな息吹き

文:河本大介 写真:本間腕

雨露をしのぐ「屋根」の存在について、私たちはふだんあまり意識することはない。屋根の形態や素材は時代にあわせて変化してきたが、京都では、寺社仏閣はもちろん、町家の屋根には今でも瓦が使われている。瓦は、飛鳥時代に仏教文化とともに朝鮮半島から伝わってきたものだという。そして、瓦づくりの技法は日本独自の進化を遂げてきた。

日本瓦は、「いぶし瓦」と、釉薬を使った「陶器瓦」に分類される。京都で伝統的に製造されてきた瓦は、前者の流れを汲むものである。「いぶし瓦」は、瓦を焼き上げる際に燻成させることで黒光りした深い味わいに仕上がる。そこに「磨き」という手作業の工程を取り入れることで、京瓦はその格調高さを保ってきたのだ。

瓦作りには、土作りから成型、乾燥、焼成という工程があるが、「磨き」は、乾燥工程の瓦がまだ半乾きの状態で施される。何種類ものヘラを用いて、瓦の表面を擦る作業により、その表面に独特の美しい光沢が出てくる。光沢が出るのみならず、撥水性も耐久性も増す。粘土の硬さや気温・湿度の微妙な変化や、作る瓦の種類や工程に臨機応変に対応していくためには、力加減、ヘラの角度、使い分けには当然ながら熟練された繊細な感覚が必要であり、それは機械化できない職人の手技の真骨頂とも言える。

今回、京瓦について話を伺ったのは、明治44年創業、浅田製瓦工場三代目の浅田晶久さん。職人歴46年になるベテラン瓦職人である。
京都には多くの瓦工場があったが、現在は浅田製瓦工場だけが「京瓦」の伝統を守り続けている。近年の住宅事情の変化や瓦に代わる新たな素材の普及に伴い、瓦を使う機会が減少していくなかで、浅田さんは、京瓦の伝統を守るために、鬼瓦、桟瓦、本葺瓦など様々な瓦作りのすべてにおいて「磨き」という作業を欠かさない。

さて、屋根瓦の話になると、京都には面白い文化がある。「鍾馗さん」だ。「鍾馗さん」と親しみを込めて呼ぶそれは、平安時代末期に中国の道教から伝わってきた魔除けの存在である。もともと寺社仏閣に据えられた鬼瓦には邪気が入りこまないようにという意味があるが、鬼より強い鍾馗さんを民家の屋根に据えることで、邪気を防ぎながらも、カドを立てずに円滑に人間関係を保とうということだ。一般家庭の屋根に鍾馗さんを設置する風習は京都だけのものであり、京都人らしい計らいが見てとれる。現在、鍾馗さんを作っているのは浅田製瓦工場だけである。桃山鍾馗の大小、復刻鍾馗の大小、そして平安鍾馗の5種類があり、京都の街中に多いのは、少し斜めを向いた平安鍾馗さんだ。見る角度や光の加減、まわりの雰囲気などにより鍾馗さんの表情も異なって見え、鍾馗さん探しは京の街歩きの楽しみにもなる。

現在、浅田さんには、阪田将揮さんというひとりのお弟子さんがいる。阪田さんに手技を伝えていくとともに、この伝統産業の技術を次世代に継承していくためのさらなる努力も怠らない。たとえば、これまで京都工芸繊維大学と共同で研究を行い、実際の職人の使う筋肉の動きを数値化し比較することや、土の粒子の分析、作業の映像化などのさまざまな「記録化」「数値化」を試みている。
そして、屋根瓦や鍾馗さん以外に、生活雑貨やインテリア用品を瓦で作るという新たな挑戦も始まっている。たとえば、球体の京瓦に意匠を凝らしたランプシェード。超微粒子になるまで細かく砕いた粘土で素地を作り、友禅染めの技法を取り入れたシルクスクリーン印刷で文様を浮かび上がらせたコースター、などである。



浅田さんの座右の銘は「温故知新」。経験のない新しいことに取り組みながら、過去を学び直すことから知恵を得よう、と。本来、屋根を覆う素材としての瓦が、これから私たちの住空間に使われようとしている。まさにこれは浅田さん的温故知新。京瓦の持つ魅力を引き出す柔軟な発想から導かれる新たな息吹きが楽しみである。

 浅田製瓦工場〉 住所:京都市伏見区舞台町5(地図) 電話:075‐601‐1506 FAX:075‐601‐1545 営業時間:9:30~18:00 定休日:土曜・日曜・祝日

 

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そして「京都KOTO-HAJIME」プロジェクトにより開発された第二弾商品は『ゴジラ×京都伝統産業』。新作映画『シン・ゴジラ』も話題となっている日本を代表する大怪獣の世界を、京都の技術で再現しました。

ゴジラ商品

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TM©TOHO CO., LTD.

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★この記事は、京都を「A」から「Z」で考えるWEBマガジン『BEACON MAGAZINE VOL.2 ~CRAFTS of KYOTO』に掲載されています。ぜひこちらから他の記事もご覧ください。
『BEACON MAGAZINE VOL.3 ~AQUA in KYOTO』
→→『BEACON MAGAZINE VOL.1 ~宇治・伏見のA to Z』

 

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