YUZU「水尾の里」

水に育まれた歴史ある里、水尾

文:田中京子

 

京都市右京区の山間にある水尾は、歴史ある柚子の里。約700年前、この地で日本の柚子栽培が始まったといわれる。もともと水尾には、「きれいな水が湧く所」という意味があると言われ、愛宕山麓から流れる水尾川が里を潤してきた。

水尾では山里の雰囲気を楽しんでもらうため、柚子を使った町おこしに取り組んでいる。名産の柚子を使った柚子風呂や、古民家での地鶏のすき焼きなどが魅力だ。まるでおじいちゃん、おばあちゃんの家に遊びに来た時のように、ゆっくりほっこりとした時間を味わうことができる。

今回訪ねたのは、水尾保勝会の村上和彦会長(64)のお宅。さっそく自家製の柚子ジュースと、柚子マーマレードがのったクラッカーをいただいた。優しい柚子の味わいに口中が満たされた後は、待ちに待った柚子風呂だ。お風呂場のドアを開けると、甘酸っぱい柚子の香りがふわっと漂う。柚子風呂といえば「冬至」が連想され冬のイメージが強いので、カンカン照りの真夏に入る柚子風呂は少し不思議な感じがする。

それもつかの間、ぬるめのお湯につかり手足をのばせば「夏こそ柚子風呂」とばかりに思いきりリラックス。湯船に浮かんだ白い布袋には、半分に切った柚子がたくさん入っている。「夏は生の柚子ではなく、冷凍しておいた柚子を使います。柚子は捨てる所がなく、皮も実も利用できるのが良いところ」と村上会長。柚子のエキスがお湯に溶け、じわっと体に染み込んでいくこの感覚はたまらない。お湯は井戸水を汲み上げて浄水処理した水を沸かしたもので、ここでも水尾の里にあふれる水の恵みを感じることが出来る。体はもちろんのこと、心の芯まで休まるというものだ。

柚子風呂を堪能した後は、地鶏を使ったすき焼きをいただく。鶏肉、ネギ、シイタケ、白菜、焼き豆腐などを入れ、砂糖としょうゆで味をつける。野菜から染み出したエキスが肉汁と混じって、何ともいえないおいしさ。柚子風味の大根おろしや、柚子こしょうとを合わせればまた箸がすすむ。お腹がいっぱいになり、ごろりと昼寝をしたい誘惑に駆られた。

せっかく「きれいな水が湧く所」と呼ばれる水尾に来たのだから、水尾の湧き水を見たい。村上会長の案内のもと水尾川を上流にさかのぼると、杉林の中で勢いよく水が湧きだしていた。一口すすると、冷たく甘い。じわっと体に染み込んでいくような感じがする。次は少し下流にある清和天皇陵を訪ねることに。平安時代、清和天皇は水尾の風景が気に入り、ここで眠ることを望んだという。柚子畑の間を縫って向かう途中、「柚子の里」の名にふさわしく、周りには緑色の柚子がたくさん実っている。清和天皇陵に到着すると、質素だが高貴なたたずまいの門がお目見え。心地よい風が吹き抜け、蒸し暑い下界とは異なる空気が流れているように感じられた。

この水尾の里に、最近、新しい風物詩ができた。秋の七草のひとつフジバカマと、アサギマダラというチョウの群れだ。フジバカマは数年前から地域の人々が休耕田で育てており、小さな薄紫の花を房のように咲かせる。すると、アサギマダラが毎年秋のフジバカマの花が咲く頃にたくさん飛んでくるようになった。

アサギマダラとフジバカマ
Credit:Σ64, License:Creative Commons Attribution-Share Alike 3.0, アサギマダラ

アサギマダラは海を渡って旅をするチョウで、フジバカマの蜜を非常に好む。水尾では過疎と高齢化が進み、虫取りを楽しむ子どもはいなくなってしまったが、9月から10月にかけて開かれる鑑賞会には妖精のようなチョウを見ようと大勢の人がやってくる。「私らの小さいころは、水尾川で魚をとって遊んだものです」と村上会長は懐かしんだ。

暑い中、山里で水の恵みをたっぷり味わった1日。里の様子が変わっても、澄んだ水の恵みは昔と変わらない。やはり、この地は水に守られているように感じる。自然いっぱい、水の恵みを存分に楽しむことができる水尾の里で、ゆったりとしたひとときを過ごしたい。

 

 <水尾保勝会>

住所:京都市右京区嵯峨水尾岡ノ窪町19(地図

電話:075-882-7456

料金:鶏すき焼き5,300円・水炊き5,500円(柚子風呂・送迎込み・税込)

※4人以上で要予約

 

★この記事は、京都を「A」から「Z」で考えるWEBマガジン『BEACON MAGAZINE VOL.3 ~AQUA in KYOTO』に掲載されています。ぜひこちらから他の記事もご覧ください。
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