STATUE「鴨川と像」

京の歴史を彩る人物に会いに行こう

文:田中京子、写真:瀧本加奈子、岡タカシ

 

よく鴨川の河川敷を歩く。信号に足を止められず、自然を感じながら南北移動できるところが気に入って。オンタイムはスタスタ、オフタイムはゆっくりと。河川敷を歩きながら橋のたもとにたたずむ人物像を巡れば、京都の自然と歴史の両方が手軽に満喫できる。五条大橋から御池大橋間の約2kmは、適度な距離の散策にも一押しのコースだ。 

散策のスタートは、「京の五条の橋の上」と歌い始める童謡「牛若丸」にちなみ、五条大橋から。左に東行き、右に西行きの車が激しく往来する幹線道路のど真ん中に、2人の石像がある。千本の太刀を集めようと道行く人から強引に刀を奪っていた弁慶。あと1本という時に出会った牛若丸にいなされて降参し、家来になった話を表している。弁慶は目とまゆの釣り上がった必死の形相で、ひらり舞い上がった牛若丸は余裕の表情。死闘を描いたシーンなのに、丸っこくて愛らしいフォルムをしている2人の姿が微笑ましく感じてしまう。

 

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次の四条大橋を目指し、河川敷に降りて北へ歩く。川ではアオサギが水にくちばしを突っ込んでいる。水面を見ると、流れに向かってバシャバシャと逆走する魚の影。アユだろうか?と気になったり、今度は4羽縦列で泳ぐカモの親子に癒されたり。草木の緑も目に優しい。大都市の中にこれほど自然が残る環境を改めて貴重に感じながら歩いていると、四条大橋に到着した。祇園祭の神輿洗いではこの橋の上から鴨川の水を汲んで、神輿を清めるという。階段を上がり、橋の北東に向かうと「歌舞伎」の創始者「出雲阿国像」が出迎えてくれた。彼女が男装で踊りを始めたのが歌舞伎のルーツとされる。左手で刀を担ぐ姿はりりしいが、扇子を持つ右手は指先しなやか。東西の歌舞伎役者がそろう「吉例顔見世興行」で有名な劇場「南座」の方を向いて舞っている。隣には「関ケ原合戦後のすさんだ世で都人を酔わせた」などと書かれた石碑の英訳を熱心に読む二人連れ。中国から来たという若い男女だ。歌舞伎を「Japanese traditional opera」と表現し、「こんな女性が存在したなんて初めて知った」と流ちょうな英語で興奮気味に話してくれた。日本文化への関心度はやはり高いようだ。

 

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再び河川敷に降りる。「納涼床」がにぎやかに並び、かつて氾濫を繰り返してきた「暴れ川」だったとは思えないほど穏やかな川岸で、カップルが等間隔に座る。三条大橋へはすぐだ。橋に上がると「東海道中膝栗毛」の「弥次喜多」の像があった。入洛して間もないのだろうか、弥次さんと喜多さんが物珍しそうにあたりを眺めている。三条大橋は、東海道五十三次の西の起点。電車も飛行機もない時代、歩いて旅をするのは命がけと言って過言でないほど大変だったはず。目的地に着いたときの喜びはひとしおだっただろう。今も昔も、三条大橋は旅の基点だったのだ。

三条大橋をわたって反対側にある、通称「土下座像」へ向かう。先ほど川岸に多くのカップルが座っていたが、ここは京阪三条駅前の待ち合わせスポットとして有名。像の人物自体は、江戸時代後期の勤王思想家、高山彦九郎。実は土下座ではなく上洛するたび京都御所に向かって拝礼した姿を表している。

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さらに北上すると、静けさが随分戻ってきた。最後は御池大橋を西へ渡り、京都ホテルオークラへ。幕末から明治時代の政治家、桂小五郎(木戸孝允)の像は、小五郎の産まれた長州藩の京都屋敷跡にあることからつくられた。ホテルの北端にあるブロンズ像は、刀を手に腰をおろし、若々しい表情。日本の未来をまっすぐに見つめているかのようで、すがすがしい気分になる。

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帰路、御池大橋へ戻る。橋から北を見ると、小五郎が芸妓の幾松と暮らした家跡で、料亭「幾松」の納涼床が見える。幕末の動乱期、反対勢力にひるまず小五郎を守ったべっぴんさんの幾松の顔が浮かんだ。鴨川の橋や像からは、平安時代から幕末まで京都の長い歴史を垣間見ることができる。「山紫水明」という言葉の通り、澄んだ川の流れがいつまでも変わらないことを橋の上から願った。

 

<五条大橋と弁慶・牛若丸像> 京都市下京区西橋詰町

<四条大橋と出雲阿国像> 京都市東山区川端町

<三条大橋と弥次喜多像> 京都市下京区石屋町

<高山彦九郎像> 京都市東山区大橋町

<御池大橋と桂小五郎像> 京都市中京区一之船入町(いちのふないりちょう)

 

★この記事は、京都を「A」から「Z」で考えるWEBマガジン『BEACON MAGAZINE VOL.3 ~AQUA in KYOTO』に掲載されています。ぜひこちらから他の記事もご覧ください。
『BEACON MAGAZINE VOL.2 ~CRAFTS of KYOTO』
→→『BEACON MAGAZINE VOL.1 ~宇治・伏見のA to Z』

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