POWER 「ダム」

水を感じるダム紀行

文:田中京子

写真提供:国土交通省 淀川ダム統合管理事務所

 

自然界に突然現れる巨大なダム。普段目にする人工物と比べて格段に大きいスケールには面食らってしまう。だからこそ、巨大な豊かに水をたたえたコンクリート堤を観賞し、運よくダイナミックな放水も見られたなら、力が湧きあがってくるパワースポットだ。そんなことを思う人が多いのか、近ごろダム観光がアツイ。京都府内にあるダムは、全国的な知名度はないものの個性派ぞろい。いくら山紫水明の都と讃えられるといっても、都市生活は潤沢な水の恩恵にも支えられているのだ。

 

温泉もカレーも楽しむ日吉ダム

「お、大きい」。そのひと言に尽きるほど、コンクリートの重厚感がものすごく、巨大な古城のような日吉ダム。桂川上流にあり、甲子園球場の約70倍の広さのダム湖が広がる、近畿で最大規模の多目的ダムだ。京都府南部の住民だけでなく、大阪や兵庫の人々の水道用水にもなっている。

堤体の上の道路を歩いていると、エレベーターを見つけた。「インフォギャラリー」という看板もある。なんと、ダム堤体の内部にギャラリーがあるのだ。さっそくエレベーターで降りてみると、展示スペースは天井が高く、広い廊下が続いている。ここが堤体の中かと実感しながら、これまでの日吉ダムの歩みを説明するパネル展示を見て歩く。意外だったのは、外は真夏を思わせる暑さなのに、ギャラリーがびっくりするほど涼しいこと。ダム湖の下部の水の冷気がどれほど冷たいのかを肌で感じることができる。

日吉ダムに来たらぜひ訪ねたいのが、天然温泉がある道の駅「スプリングスひよし」。この中の「レストラン桂川」には名物「日吉ダムカレー」(918円)がある。

ダムカレーとは、ご飯を堤体に、ルーをダム湖に見たてたカレーのこと。今や、日本のあちこちのダムにご当地ダムカレーがあるらしい。日吉のものは、地元産の米を使ったご飯を堤体に、地元で獲れた鹿肉のカレールーを湖に見立て、地元の鶏のゆで卵で円形の「ふれあい橋」を、古代米のご飯で芝生広場、福神漬けで放水を表現している。

注文すると、スパイスの香りが食欲を誘う。「時間が経つと、どうしてもルーが固まってきます。アツアツを食べて、勢いよくルーを放流してください」と、スプリングスひよしの奥村智史(おくむらさとし)営業企画係長にすすめられた。なるほど、ダムを放流する瞬間は胸のすく思いだ。脂身の少ない牛肉のような味の鹿肉も、本物のダムを横目に見ながらおいしくいただいた。

 

日吉ダム> 

住所:京都府南丹市日吉町中神子ケ谷68(地図

電話:0771-72-0171(平日のみ)

※インフォギャラリーは10:00~16:00

定休日:水曜

スプリングスひよし> 

住所:京都府南丹市日吉町中宮ノ向8(地図

電話:0771-72-1526

定休日:水曜

※レストラン桂川は11:00~21:00、LO20:00、その他施設により異なる。

 

人で賑わう大野ダム

同じ南丹市内にあり、今度は日本海へ向かって北に流れる由良川上流の大野ダムへ。いまは人が少ないが、春は桜祭、秋にはもみじ祭が開かれてにぎわう。管理事務所の隣のビジターセンターに入ると、「ダムの子ら」という冊子が目にとまった。

大野ダムは古くからたびたび洪水被害に遭ってきた由良川下流の治水対策としてつくられたが、立ち退きをせまられた上流の住民の間には反対の声もあったという。冊子「ダムの子ら」は、住んでいた子どもたちによる作文集だった。住んでいる家や田んぼがダムに沈んでしまうことへの困惑や不安、そこから次第に現実をうけとめる気持ちが、素直につづられている。完成から半世紀以上。当時の子どもたちはとっくに大人になって孫もいるような年齢だが、どこでどのように暮らしているのだろう。大人になった「ダムの子」に会って、話を聞いてみたくなった。

 

大野ダム> 

住所:京都府南丹市美山町樫原中ノ山48-5(地図

電話:0771-75-0143(平日のみ)

※ビジターセンターは9:30~17時(12月~3月は16:30まで)

  

見る目を圧倒する迫力

最後は宇治市の天ヶ瀬ダム。世界遺産の平等院や宇治上神社(うじかみじんじゃ)から程近い場所にあり、地元住民にとっては遠足やハイキングでおなじみの場所だ。

天ヶ瀬ダムは、1953年の台風被害をきっかけに、洪水を防ぎ、電気をつくり、飲み水を供給するためつくられた。ダムには通常の放流の時に開くゲートと、非常時に開けるゲートがある。ダムを管理している職員さんによると、2013年の台風18号で増水した時は、非常用のゲートも使用した。通常の放流は、梅雨や台風時の雨で増水したときに行う。その水流の勢いの強さは、見ごたえたっぷりだ。

ところで、ダムが好きな人たちの楽しみに「ダムカード」がある。表にダムの写真、裏に豆知識がのっているトランプほどの大きさのカード。

天ヶ瀬ダムのカードは、優美なアーチ型がよくわかる写真で、1か月に約500人がもらいにくるという。京都府内でダムカードを配布しているのは、天ヶ瀬、日吉、大野、高山、畑川の5つのダム。全国的に見ても、北は北海道から南は沖縄まで、熱狂的なファンが収集に駆け回っている。

 

天ヶ瀬ダム> 

住所:京都府宇治市宇治金井戸15(地図

電話:0774-22-2188(平日のみ)

※見学は8:00~17:00

自然破壊や税金の無駄使いなどと批判を受け「脱ダム」という言葉も流行したが、洪水や水枯れを防ぐなど、ここぞという時に活躍してくれるダム。ダイナミックな放水のほか、自然観察や施設見学、ダムカードなど、足を運べばお楽しみはたくさん。日常生活で目にする機会はないだけに、影ながら生活を支えてくれるダムの圧倒的な存在感に心奪われるだろう。ダムを巡り、建造物としての価値、迫力たっぷりの水の表情を追い求めれば、ロマンも感じられるはずだ。

 

★この記事は、京都を「A」から「Z」で考えるWEBマガジン『BEACON MAGAZINE VOL.3 ~AQUA in KYOTO』に掲載されています。ぜひこちらから他の記事もご覧ください。
『BEACON MAGAZINE VOL.2 ~CRAFTS of KYOTO』
→→『BEACON MAGAZINE VOL.1 ~宇治・伏見のA to Z』

 

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