GARDEN「池泉回遊式庭園」

全てを映し出す池に魅せられる 

文:柚原靖子

 

広い池と、その周りに配された植栽や石、築山。日本の美しい自然風景を限られた空間の中に再構築した庭園を前にすると、心がすっと落ち着いてくる。池はその水面に梅雨の合間の青空を映し出し、雨の日には雨粒が美しい波紋を描き続ける。そんな池泉回遊式庭園をぼんやり眺める時間のなんと贅沢なことだろうか。

蒸し暑さが増してくる京都の6月、涼を求めて池泉回遊式庭園を訪ねた。まずは嵐山へ。風光明媚な光景は平安時代から人々に愛され、天皇や貴族がこぞって別荘を構えた場所だ。贅沢にもその自然を借景にしたのが天龍寺の「曹源池庭園」だ。

 

天龍寺といえば、足利尊氏を開基、夢窓疎石を開山として開かれた禅寺。禅僧の夢窓疎石は京都では天龍寺の曹源池庭園のほか苔寺(西芳寺)の庭園を作ったことでも知られる。庭園のみでも参拝できるが、ゆっくり庭を見るならまずは大方丈に向かおう。 

大方丈では、できれば池越しの正面に石組を望む場所に座りたい。“滝を登り切った鯉が龍に姿を変える”という故事にならった石組「龍門爆」を見るベストスポットだ。巨大な石がいくつも重なりあう様は確かに流れ落ちる滝そのもので、轟々とした滝の音が聞こえてくるよう。視線を上げれば、左手の嵐山と右手の亀山が借景に。嵐山の自然景観がダイナミックに取り入れられているのがわかる。

さらに場所を変え、右手の書院に移動すると眺めは一転。さっきまで座っていた大方丈前に曹源池にせり出す州浜があったことに気付く。その曲線がなんともいえない優雅さを醸し出している。さらに右手から迫る嵐山に対して、大方丈の上に広がる空の抜け感がたまらなく気持ちいい。

ここには昔、後嵯峨・亀山上皇の離宮が置かれていた。夢窓疎石はそこにあった庭園を修築して、新たに庭園を作ったという。どことなく優雅さが漂うのはきっとその名残。そして観光客の賑やかな話し声さえ包み込んでしまうような、嵐山の大らかな空気感も魅力的。訪れた日は晴天だったが、あえて雨の日に行けば、また違った光景が楽しめるに違いない。

 

そんな嵐山と並ぶ京都の代表的な観光地が、銀閣寺や哲学の道があるエリア。こちらにも魅力的な庭園がある。「白沙村荘 橋本関雪記念館」だ。 

「白沙村荘」とは、近代の日本画家、橋本関雪が築いた庭園。一面水田だったというこの場所を整地し、居宅や大画室、芙蓉池など3つの池と茶室、さらに全国各地から蒐集した石造美術品を配したもので、庭園はその細部まで関雪の指示により作られたものだ。

入口は賑やかな今出川通り沿いにあるが、小ぢんまりした入口から一歩中に入ればそこは別世界。木漏れ日の下、せせらぎが流れる園路に沿って進めばやがて水辺の景色は一転、大海を思わせる芙蓉池が目に入る。その池越しには関雪が絵画の制作を行った建物「存古楼」が見える。さらに小さな石橋を渡って行く先には、茶室の数々が。茶室に上ることはできないが、目線を低くして、茶室からどのような眺めが見えるのかを想像してみる。石仏や石塔も、まるで昔からそこに置かれていたかのようにしっくりと溶け込んでいる。

「橋本関雪記念館」の2Fテラスにも上ってみる。真正面に広がる東山大文字の眺めは圧巻だ。偶然居合わせた館の方に伺うと、「存古楼」の2階(非公開)からは五山の送り火がよく見え、その「大」の字は芙蓉池の水面に映し出されるよう計算されていたのだとか。関雪がこの地に白沙村荘を構えた理由――それが東山大文字の眺めを取り入れることに集約されていたことを実感できる。

 

関雪の美の世界を存分に楽しんだあとは、関雪のもうひとつの“作品”を見に行こう。それは哲学の道の「関雪桜」。桜色に染まる春の哲学の道。それは関雪がここに桜の苗木を寄贈したことに始まるのだ。庭園の余韻を楽しみながら、疎水沿いにもう少し歩いてから帰路につくことにした。

 

天龍寺

住所:京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町68(地図

時間:8:30~17:30閉門(10月21日~3月20日は17:00閉門)

電話:075-881-1235

参拝料:庭園500円・諸堂参拝100円追加・法堂は別途500円

 

白沙村荘 橋本関雪記念館> 

住所:京都市左京区浄土寺石橋町37(地図

時間:10:00~17:00(受付16:30)

電話:075-751-0446

料金:一般1,300円 学生(大学生以上)500円 中学生以下無料

   ※特別展開催時には料金に変更があります

 

★この記事は、京都を「A」から「Z」で考えるWEBマガジン『BEACON MAGAZINE VOL.3 ~AQUA in KYOTO』に掲載されています。ぜひこちらから他の記事もご覧ください。
『BEACON MAGAZINE VOL.2 ~CRAFTS of KYOTO』
→→『BEACON MAGAZINE VOL.1 ~宇治・伏見のA to Z』

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