TOFU「千代とうふ店」

大豆の旨味を引き出す相棒

文:中村慶子、写真:大島拓也

豆腐と聞けば、どんな印象を抱くだろうか。ラッパを吹きながら行商する豆腐屋さんは庶民的な存在だが、京都ではもう少し高級なイメージかもしれない。京都で豆腐といえば寺社仏閣で精進料理として用いられ、料理店では湯豆腐や京懐石の一品、スイーツまで幅広く使われるようになった。そんな発展があったのも、清らかでおいしい水があったからこそ。豆腐を使った食材はなんといっても京都らしいし、水のおいしさを手軽に感じるのには最適だ。

おいしい豆腐屋を一店紹介するなら京阪・清水五条駅に近い「千代とうふ店」。祇園や先斗町などと並んで京都五花街のひとつに数えられる宮川町にあり、舞妓さんが行き交う石畳の通りにさりげなくたたずむ。60年前に初代の千代利男(ちしろとしお)さんが創業したときから良質な井戸水を使用。滋賀県産丸大豆とまぜて丁寧に作られた豆腐や生湯葉は、祇園の有名料亭から信頼される品質。伏見名物の稲荷寿司にも、こちらの寿司揚げが多く使われている。

豆の香りが漂い、年月の刻印を感じさせる店内。「出来立てをどうぞ」と利男さんの長女、鳴田敏子(なるたあつこ)さんが水にさらした豆腐を取り上げ、切り分けてくれた。毎日豆腐を食べているという敏子さんの肌は豆腐のように白い。「水は清水さんからの水脈でしょう。皆さんにおいしいと言ってもらって、水の恵みに感謝する毎日ですね」。あまりにおいしいと言われるため、先日専門家に依頼して水の成分を分析してもらったところ、マグネシウムやカリウムなどの主要ミネラルがおいしい水特有のバランスだとお墨付きももらったそう。
まだほのかに温かい豆腐は、豆の風味が濃いのにさっぱり味。豆乳の濃度が16%で、8~10%ほどという市販の豆腐の2倍もある。濃厚な豆のおいしさが、癖のない地下水を介するからこそ、ストレートに伝わるのだ。パッケージには3日後の消費期限が記されているが、「添加物を使っていないので、お客さんには『できるだけはよ食べてね』『できれば今日中がいいですよ』と声を掛けさせてもらっています」。逆に言えば、早く食べるほど、豆と水のおいしさを堪能できるというわけだ。どろっと濃い豆乳や滑らかな口当たりの生湯葉でも、豆と水のハーモニーが存分に楽しめる。

商品はお得意さんへの配達が大半だが、料亭で豆腐の味を気に入った人が帰りに立ち寄るなど、店で直接購入する客も多い。中にはポリタンクを持った人の姿もちらほら。祇園のステーキ店オーナーの男性は、豆腐を店に配達してもらう一方、3日に1回ペースで自ら千代さんへ水をくみに来るという。「お冷とウイスキーの水割りはここの水を使わせてもらっています。いろいろ使ったけど、ここのが一番」。ほかにも「魚の持ちがいい」と生け簀にこちらの井戸水を使う料理店があるなど、各方面で水が活躍中だ。

店内では、敏子さんの夫で店主の鳴田厚夫(なるたあつお)さんが、黙々と豆腐を作っている。にがりを入れて固まり始めた豆乳を型箱に流し込むところだったが、加熱した豆を扱っているので、かなりの蒸し暑さだ。額に汗を浮かべながら淡々と作業をする中、ふとコップに手を伸ばし、ゴクゴクと水を飲み干すご主人の横顔が印象的だった。夏場でも12度に保たれ、スーッと体に染み入る井戸水は、きっとどんな手の込んだ飲み物よりおいしいに違いない。よい水と豆、そして一生懸命作る人がいてこそ、私たちがおいしい豆腐を口にすることができる。そんなことをふと感じた瞬間だった。

千代とうふ店
住所:京都市東山区新宮川町松原下ル西御門町464-2(地図)
TEL:075-561-4484
営業時間:10:00~18:00
定休日:日曜

 

★この記事は、京都を「A」から「Z」で考えるWEBマガジン『BEACON MAGAZINE VOL.3 ~AQUA in KYOTO』に掲載されています。ぜひこちらから他の記事もご覧ください。
『BEACON MAGAZINE VOL.2 ~CRAFTS of KYOTO』
→→『BEACON MAGAZINE VOL.1 ~宇治・伏見のA to Z』

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