SAKE「木下酒造有限会社」

英国人杜氏が生み出す日本酒レジェンド

 文:大河内ゆかり、写真:岡タカシ

 

いま日本酒がブームだ。日本食人気にも伴い、国内のみならず海外でも熱い視線が注がれている。最近ではGINJO(吟醸)やJUNMAI(純米)といった言葉も理解されつつあるそうだ。

とはいえ酒造りは地域の風土や文化などが凝縮した超ドメスティックな世界。そんな伝統的な酒造りの現場へ飛び込んだアウトサイダー、イギリス人杜氏のいる酒蔵を訪ねて京都府の北端・丹後半島へやってきた。京都駅から列車に揺られて約3時間、美しい海と山に囲まれた京丹後市久美浜町には、市内とは全く別次元の京都が広がっている。 

「良水のあるところに良酒あり」と言われるほど、酒造りにはその土地の水質が大きな影響を与える。1842(天保13)年創業の木下酒造でも、蔵の裏にある城山(しろやま)の湧き水を使って代々酒造りが行われてきた。地酒「玉川(たまがわ)」の蔵元で、10年ほど前までは主に地元向けに酒造りを行っていたと11代目蔵元の木下社長は語る。長年務めた杜氏が亡くなって一時は廃業の危機に。再生をかけ、迎えたのがイギリス人杜氏のフィリップ・ハーパー(Philip Harper)氏だった。

ハーパーさんはオックスフォード大学卒で英語教師として来日、日本酒の魅力にハマって酒造りの道へ。各地の酒蔵で経験を積んで日本三大杜氏のひとつ南部杜氏の資格を取得。外国人初の杜氏となり、木下酒造で意欲的に酒造りに取り組んでいる。

丹後・城山の魅力について、ハーパーさんはこう語っている。

「うちの商品ラインナップは他社と比べて多彩で、麹の造り方、麹・水・米の割合、酵母の育て方、熟成期間などの要素が、それぞれの商品独自の個性を生み出しています。それでも、「こんなにバラエティがあるのに、何か共通した玉川イズムを感じる」という声をよく聞きます。その「玉川」全般の質感を持たせているのが、うちの城山の湧き水でしょう」。

 

この日ご本人にはお会いできなかったが、取材を通してハーパーさんの気概や思い入れはぐいぐいと伝わってきた。

木下酒造の柱は自然仕込と名付けた生酛(きもと)や山廃のお酒だ。淡麗辛口が主流の中、あえてどっしりとした飲み口の酒に力を入れている。自然仕込とは家付き酵母による酒造りのことで、蔵に棲み着く微生物によって醸す古典的な製法だ。自然任せなので手間がかかって失敗のリスクも高い。にも関わらず江戸時代と変わらぬ製法に挑む姿勢には、昔ながらの酒造りにこだわる並々ならぬ熱意を感じさせる。

生酛系のみならず、さまざまな切り口から日本酒の楽しみ方を広げているのも特徴だ。例えば木下酒造の名を一躍全国区にしたのが「Ice Breaker」という夏限定の生原酒。生産が追いつかないほどの大ヒット商品はちょっとした異文化のエッセンスが利いている。「日本酒は互いにお酌をし合うことで場を和ませるものだと言うと、英語ではそういうのを“Ice breaker”と言うと彼が話したんです」。そこからIce breaker=氷を溶かす=ロックで楽しむ日本酒が誕生したと木下社長が教えてくれた。芳醇な味わいは、氷の溶け具合でも味の変化を楽しめる。これまで日本酒を飲まなかった人にまで支持された意義も大きい。

「Time Machine 1712」というお酒では江戸時代の製法を再現。現代の日本酒と比べて酸やアミノ酸の度合いが高く、濃厚ながらキレのある甘さが特徴だ。これがアイスクリームと相性抜群。店頭ではこのお酒をかけたソフトクリームが名物メニューになっている。さらに日本酒ではあまり一般的ではない長期熟成のお酒も展開し、“ヴィンテージ日本酒”として新たなファンを獲得している。 

1つの枠にとらわれないハーパーさんの酒造りは実に夢がある。また木下酒造のような地方の蔵が個性を発揮し、ローカルから日本酒市場を盛り上げるパワーも実感した。土地の歴史や風土と深く結びつく地酒は、その地域を知る入口でもある。神話の時代から時を刻む丹後は壮大な歴史を内包した所だ。弥生時代に稲作がもたらされ、伊勢神宮に酒を伝えた起源の地でもあるという。一杯のお酒はそんな古代のロマンをもかきたてる。悠久の歴史の中で営まれてきた丹後の日本酒はいま情熱ある造り手によってさらに魅力を増し、小さな町と世界を結ぶ架け橋になろうとしている。

 

 

木下酒造有限会社> 

住所:京都府京丹後市久美浜町甲山1512(地図

電話:0772-82-0071

時間:9:00~17:00(販売)

(純米吟醸 Ice Breaker 無濾過生原酒/1.8L・3,148円、500ml・1,155円)

(玉川 自然仕込 純米酒(山廃)無濾過生原酒/1.8L・2,674円、720ml・1,337円)

 

★この記事は、京都を「A」から「Z」で考えるWEBマガジン『BEACON MAGAZINE VOL.3 ~AQUA in KYOTO』に掲載されています。ぜひこちらから他の記事もご覧ください。
『BEACON MAGAZINE VOL.2 ~CRAFTS of KYOTO』
→→『BEACON MAGAZINE VOL.1 ~宇治・伏見のA to Z』

 

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