BEER「キンシ正宗」

はんなり、まったり・・・どれにしますか?京都の地ビール

文:林宏樹、写真:津久井珠美

 

最近ではクラフトビールという呼び名も定着してきた地ビール。その土地でしか飲めないものも多く、旅先で個性的な地ビールに出会うと、それだけで嬉しくなってしまう。

京都にもいくつかの地ビールメーカーがあるが、洛中、それも京都御所のすぐ近くに湧く名水で醸されているのが、京都町家麦酒醸造所の地ビールだ。町の真ん中で豊かな水の恵みが享受できる、まさに京都ならではの地ビールだ。

その名水が湧いているのは、キンシ正宗堀野記念館の中庭。桃の木の下にあることから「桃の井」と名付けられている。毎時3トンもの水量があるが、井戸の深さは7mと浅く、ミネラル分の少ない中硬水。口に含んでみるととてもまろやかな、出汁をひいたり、お茶やコーヒーを淹れるのに向いたやさしい水だ。会員登録すれば自由に水が汲める制度があり、日中は水を汲みに来る人が絶えない。

キンシ正宗と聞けば「日本酒?」と思う方もいるかもしれない。この桃の井の湧く地こそが、造り酒屋「キンシ正宗」の創業地だ。江戸時代の天明元年(1781)から、伏見に酒造りの拠点を移す明治13年(1880)まで、桃の井の水が日本酒の仕込み水として使われていた。

この創業地に残っていた酒蔵を改装し、現在4種類のビールを製造しているのが京都町家麦酒醸造所だ。

 「桃の井のお陰でこの場所に酒造りの歴史が生まれ、現在それを受け継いでビールを作らせてもらっています。この桃の井の水を使っていかに美味しいビールを作れるかというのが私たちの醸造所の目指すところです」と話すのは、工場長で平成9年(1997)の京都町家麦酒醸造所の立ち上げから関わっている三好ちづ子さん。メーカーによっては、求めるビールの仕上がりに近づけるため、仕込み水の硬度やpHを調整することも珍しくないそうだが、町家麦酒醸造所では桃の井の水に一切手を加えることなくビール作りが行われている。 

「この桃の井の水をそのまま使うことに加えて、いかに和食文化に寄り添えるかが京都町家麦酒醸造所のテーマです」と話す三好さん。「地ビールはキャラクターが強いものが多いですが、料理に寄り添える、料理の味を邪魔しない、やさしい味を目指しています」とのこと。実際にお客さんから「やさしい味ですね」という評価を受けることも多いという。

 

実際に京都町家麦酒醸造所で作られているビールを見てみよう。

醸造している4種類の中でもフラッグシップとなっているのは、ケルシュタイプの京都町家麦酒「かるおす」。華やかな香りで軽い飲み口は、さっぱりとした和食に合いそうだ。ほかにも、アルトタイプの京都花街麦酒「まったり」、ドライスタウトの京都平安麦酒「くろおす」とユニークな商品が揃っているが、筆者のおすすめは「京都はんなりIPA」。

ほかの3種と少しラベルのデザインが異なるが、もともと期間限定の予定で平成25(2013)年に発売したものが好評で、定番に加わったのだとか。商品設計は三好さんが担当され、IPAの特徴である苦味や、高いアルコール度数を少し控えて、軽やかな京都らしいIPAを目指したという。早速自宅用に2本購入して晩酌にいただいたが、ホップを通常の1.5倍も使っているだけあって、ひと口飲むと爽やかなホップの香りが鼻に抜ける。確かに苦味は抑え目で、IPAとしては柔らかい印象だ。

はんなりIPAを飲みながら三好さんの言葉が思い浮かんだ。「芸術品ではないので、どこまでお客さんに寄り添えるかがすごく大切だと思っています。イベント等では新しいビールにもチャレンジしていきたいですし、あのビールはもうないの?と言われるような商品を作っていきたいです」。
作り手を知ってしまうと、ついついこれからも贔屓にしてしまいそうである。 

 

<キンシ正宗 堀野記念館京都町家麦酒醸造所

住所:(堀野記念館)京都府中京区堺町通二条上ル亀屋町172(地図

   (京都町家麦酒醸造所)京都府中京区堺町通二条上ル亀屋町173 (地図)

電話:075-223-2072

営業時間:11:00〜17:00(最終受付16:30)

休館日:火曜(1~3月、6~9月、12月は火・水曜休)

    ※年末年始、7・8月は臨時休館あり

入館料:大人300円、学生(小学生以上)200円(堀野記念館)

    ※麦酒醸造所の見学は別途要相談 

 

★この記事は、京都を「A」から「Z」で考えるWEBマガジン『BEACON MAGAZINE VOL.3 ~AQUA in KYOTO』に掲載されています。ぜひこちらから他の記事もご覧ください。
『BEACON MAGAZINE VOL.2 ~CRAFTS of KYOTO』
→→『BEACON MAGAZINE VOL.1 ~宇治・伏見のA to Z』

LINEで送る