SENTO「長者湯」

全身で水の恵みを感じるなら銭湯へ

文:林宏樹、写真:津久井珠美

山紫水明の地・京都で、豆腐を食べ、伏見の日本酒を呑めば、それだけでも水の恵みを感じることはできると思う。でも、もっと深く水の恵みを感じたいなら、是非とも銭湯に足を運んで欲しい。いや、運ぶべきだ。

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まちの銭湯が減り始めて久しいが、京都市内にはまだ120軒ほどの銭湯、お風呂屋さん(京都ではこう呼ぶ方が一般的である)が営業している。京都のお風呂屋さんは、第二次世界大戦で大規模な空襲を免れたため、戦前に建てられた趣ある建物が数多く残っているという特徴もあるが、それ以上におすすめしたい理由は水にある。

京都の銭湯組合の調査によれば、42.5%のお風呂屋さんが井戸水だけで営業しているという。水道水との併用を加えれば、実に88.9%のお風呂屋さんが井戸を持っており、井戸水を沸かして営業しているのだ。この数字は、いかに京都が地下水に恵まれている土地かを表していると思う。この井戸水の恩恵は、お風呂屋さんの浴槽にも表われる。サウナのある銭湯に水風呂は必需品だが、京都の場合、サウナのない銭湯にも水風呂が必ずと言っていいほど設置されている。しかも、その水風呂の多くは、水を循環させず、かけ流しにしているのだ。要するに、塩素を入れない、地中から汲み上げた井戸水そのままを全身で感じることができるのだ。

筆者が京都のお風呂屋さんの中でもスペシャルと思うところを1軒だけ紹介しておこう。西陣の住宅地の中に、凛とした姿を残す長者湯というお風呂屋さんだ。創業は大正6年(1917)。伝統的なお風呂屋さんに見られる唐破風が残る現在の建物は、昭和11年(1936)築で、京都市の歴史的建造物に指定されている。脱衣場には、金閣寺や清水寺のタイル絵があるだけでなく、近江八景の欄間、円山公園とここにしかないという灯篭や池のある坪庭の趣なども一級品で、映画「舞妓Haaaan!!!」ではロケにも使われた。

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こちらの長者湯さんも、もちろん井戸水を沸かしている。近隣には「出水」という地名も残り、古くから清涼な水が湧いていたエリアということが想像できる。さらにこの長者湯さんの特筆すべき点は、自宅棟の床下に、昔ながらの円筒型の井戸が残り、そこからポンプで水を汲み上げているところだ。パイプを地中に打ち込んで地下水を汲み上げている井戸が多い中、こういった円筒型の井戸を現役で使っているお風呂屋さんは珍しい。

普段は非公開で入れない井戸に案内してもらった。床板をめくり、狭い階段を数段降りると、本当に井戸が現れた。電気を点けて中を覗き込むと、地下数メートルに水面が見える。ご主人の間嶋正明さんによれば「生活用水として自宅でも使ってます」とのこと。ここでは、今でも生活と井戸水が深く繋がっている。

長者湯では、この井戸水を昔ながらに廃材で沸かしている。ボタンひとつで点火できる重油ボイラーで沸かしたお湯に比べ、ご主人が汗水流して釜の番をしておられる姿を見ると、なんとなく沸いたお湯もありがたい気がする。

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さて、午後3時10分になれば、長者湯の営業開始だ。常連さんに混じって、一番風呂を頂戴しよう。午後の光が天井の湯気抜きから浴室に降り注ぎ、明るいうちに入るお風呂屋さんは、格別の開放感を味わえる。

身体をきれいに洗い、じっくりと湯船で身体を温めたら、いよいよ地下水かけ流しの水風呂だ。年間を通して一定の温度を保っているという井戸は、夏には特別冷たく、冬には肌に優しい。入る瞬間は冷たさを感じるが、入ってしまえばもう快感のみである。たっぷりのお湯で身体を温め、水風呂と往復すると、身体がとろけていく。この感覚は、是非みなさんに感じて欲しいところだ。こんな贅沢が430円で味わえるお風呂屋さんを、京都で体験しない手はない。一度体験すれば、虜になることを保証する。

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<長者湯>
京都市上京区上長者町通松屋町西入須浜東町450 (地図)
電話:075-441-1223
営業時間15:10〜24:00 
定休日:火曜

 

★この記事は、京都を「A」から「Z」で考えるWEBマガジン『BEACON MAGAZINE VOL.3 ~AQUA in KYOTO』に掲載されています。ぜひこちらから他の記事もご覧ください。
『BEACON MAGAZINE VOL.2 ~CRAFTS of KYOTO』
→→『BEACON MAGAZINE VOL.1 ~宇治・伏見のA to Z』

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