SPRING「命の水」

あちこちに溢れ出る水のパワー

文:田中京子、写真:マツダナオキ

鴨川や桂川の流れる京都盆地は、地下に琵琶湖に匹敵する豊富な水を蓄えているといわれる。市内のあちこちに水が湧き、それを汲んで帰ってコーヒーを淹れたり、ご飯を炊いたりする人も多い。どこの神社にも身を清めるための御手洗があるように、美しく湧き出す水は、しばしば信仰や崇敬の対象となってきた。京都の中でも、湧き水の美しさで有名な神社を訪ねてみた。

御所の東、暮らしを潤す森の水

歩いても歩いても続く、広大な緑の森。京都御苑の東側、寺町通のあたりは、平安時代、公家の屋敷が並んでいたと伝えられる。この一角に名水で知られる「梨木神社」がある。境内にある「染井の井戸」は、京都三名水のひとつに数えられる。かつては宮中御用の染所の水として用いられたといい、茶の湯にも向いている。甘くまろやかな味で、今でも地元の人たちがひっきりなしに水をくみにくる。この日もペットボトルを手にした男性が水をくみにきていた。「どうですか?」と聞くと、「おいしいよ」とにっこり。

地中に吸い込まれた雨水は、湧き水となって再び現れて私たちの喉をうるおしてくれる。こんな街中でも、私たちの暮らしは自然の水の循環の中にあるのだということが改めて感じられる。

梨木神社> なしのきじんじゃ 
住所:京都市上京区寺町通広小路上ル(地図
電話:075-211-0885
拝観時間:6:00~17:00頃

 

香り漂う伏見の水

京都市南部の伏見区は良質の地下水に恵まれ、「湧き水スポット」も多い。その一つ、「御香宮神社」の水は、環境省「名水百選」にも選ばれている。その名も「御香水」。平安時代に清泉が湧き、よい香りが四方に漂った。飲むとどんな病人も治るという奇跡が起きたという。この水は明治以降、いったん枯れてしまったが、1982年に掘り直して復元した。御香水は今も本殿の横で飲むことができる。体の細胞一つ一つにしみていくような、冷たくてやわらかい水だ。

 

伏見は日本酒の町でもある。神戸・灘の「男酒」に対して、伏見の酒は「女酒」といわれる。なめらかで柔らかい京都の湧き水の特性が日本酒の味にも表れるのだろう。

御香宮神社を出ると、かつては酒樽を満載した十石舟が行き来した運河沿いに酒蔵が立ち並ぶ。酒蔵を巡って飲みながら散策してみるのも楽しい。「女酒」とはいえ飲み過ぎは禁物。仕込みにも使われる水を飲みながら嗜もう。

御香宮神社> ごこうのみやじんじゃ
住所:京都市伏見区御香宮門前町174(地図
電話:075-611-0559
時間:9:00~16:00

 

日本の酒を守る水

背後の山の木々からか、近くの桂川からか。漂う空気からも豊富な水の気配を感じる。「お酒の神様」として信仰を集める松尾大社境内には、「亀の井」という湧き水がある。この水で酒を仕込むと酒が腐らないといわれており、全国各地の酒造業者が参拝に訪れる。境内には奉納された酒樽がずらりと並び壮観だ。

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松尾大社では、亀は神の使いとしてあがめられている。湧き水も、亀の石像の口からちょろちょろと流れている。長寿の亀にあやかって、延命長寿の御利益もありそうだ。境内には酒造りの道具や昔のポスターが展示されている「お酒の博物館」があり、無料で見学することもできる。

松尾大社> まつおたいしゃ
住所:京都市西京区嵐山宮町3(地図
電話:075-871-5016
時間:5:00~18:00

帰り道、自動販売機で飲み物を買おうとして、ふと手をとめた。京都にはこんなにおいしい水があちこちにあるのに、今まで気づかなかったなんて。湧き水は京都の街の発展に大きな役割を果たしてきた。湧き水の存在に感謝しつつ、色々飲んでみてお気に入りの水を見つけてみよう。

★この記事は、京都を「A」から「Z」で考えるWEBマガジン『BEACON MAGAZINE VOL.3 ~AQUA in KYOTO』に掲載されています。ぜひこちらから他の記事もご覧ください。
『BEACON MAGAZINE VOL.2 ~CRAFTS of KYOTO』
→→『BEACON MAGAZINE VOL.1 ~宇治・伏見のA to Z』

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